漂流息子

蠅の王 (新潮文庫)

蠅の王 (新潮文庫)

「――ちびっ子たちは、いま火が燃えているあのあたりをうろうろしていた。あの子たちがあそこにいないって、保障できるか?」
ピギーは立ち上がって、煙と炎のほうを、指さした。囁きが少年たちの間に起り、消えていった。ある異様なことが、ピギーに起りつつあった。彼は、息をつこうとして喘いでいた。
「あの小さな子――」と、ピギーが喘ぎ喘ぎ、いった――「顔に痣のある子、あれが見当たらないじゃないか。今、どこにあの子はいるんだ?」
みんなは、死んだように沈黙した。
「蛇のことをいっていたあの子。あの子はさっきあの下のほうにいたんだ――」

一言要約「少年漂流記」。
目が覚めたら、そこは浜辺だった。どうやら乗っていた飛行機が墜落したらしい。そんでもってここは絶海の孤島で、この島にいるのは数人の少年と小さな子供たちだけだった…。

団体漂流モノだが、小さな子供たちは単なる記号にすぎないので、話は数人の少年、というよりも主人公ラーフと、彼と同じくらいリーダー性を持ち、やがて対立することになるジャック、主人公と終始行動を伴う子豚ちゃん(ピギーとよばれる少年)とあと1人ぐらいが物語を進める役割を担う。

孤島に取り残されたという状況ながらも、緑あふれるこの島で、果実をほおばり、きらめく水に泳ぎ、森の探索に胸を躍らせた少年たち。だが、その楽園の謳歌も、少しずつ暗雲が立ち込めるようになってゆく。

最初は、この子供たちをまとめてゆくのに互いの力を認めながら行動していたラーフとジャック。しかしこの二人は、それぞれが行動様式に基盤を置くモノの違いのために、次第に互いに対し齟齬を感じるようになってゆく。で、この二人がその相容れることができないことを決定付ける「ある事件」が起こるのだが、その事件が起きるまでのもっていき方が、王道で、非常にうまい。そりゃ、対立もさもありなんといった感じ。

本筋とは関係ないのだが、本書では脇役に双子の少年が出てくる。この双子が、まるでよくマンガに出てくる「二人で一役」のようなキャラで、行動も台詞も分け合うようにして行う。なんだ、このさりげない萌えキャラはと(笑)*1

物語は、意外な形で(少なくともkiaoにとっては)ストンと終焉を迎える。この意外なほどの呆気なさが、逆に彼らの孤島での出来事が、いかに異常で陳腐なできごとだったかを示しつける。ある意味残酷(だが、それがいい)。

*1:もちろん冗談です。ホントに萌えたりはしないから