一般論ではなく、経験論

本書は森博嗣付属本としてではなく、(大学に関する)いわゆる一般的な新書としても十分読める。
ただ、Q&A方式なので堅苦しくはなく、さらっと読めてしまう。
(是非はともかく、この方式って書くほうも読むほうも気楽になれる)


内容は、半分くらいは今までの日記シリーズや「臨機応答・変問自在」のなかでいわれていることと一緒。(働くまいが、人は平等。今は昔に比べ、世間で言うよりよくなってきている。人間の知的能力は問題をみつけること……etc)
ということで、残りのもう半分が本書の核(だろう)。
結論はというと、…なかなか好印象。


研究や大学の経営構造、仕事についてなど【大学論】については、やはり20年以上そのなかにいただけあって、なかなか興味深い。
しかしその点においても、自分の経験を拡大解釈をして(時に尊大な)一般論に持ちあげようとはしない。
あくまで、自分が身をもって経験・肌で感じたことをベースとした「話」に終始している。
組織というものについて、いわゆる「お役所仕事」といわれるものは、学内人事はどうなっているのか…などといった点など、
理(念)に基づいた著者の意見は、大変興味深い。


社会・学生・大学に対しても過大な(もしくは過小な)期待は持っていない(多少は楽観か)。
いまある姿も、それがかつて目指したものの結果にすぎないという。


作者が持つ、恐ろしいまでの客観性は本書でも遺憾なく発揮されている。
(研究者になったのも小説家になったのも、自分の適性・嗜好を理解し、
自分が生きやすい環境を造るそのためのレール敷きにすぎないようだ)


最後に、一番印象に残った文章を引用。

自分がつくったもの、手にして観察したもの、それから得られる情報を、自分のものにする、そしてそれを別の対象にも役立たせる*1、という力が必要ですね。どういうわけか、今の子供たちは、自分が観察したものより、人から聞いたものの方を信じる傾向にありますね。テレビでやっていること、友達が言ったこと、そっちの方が正しいと思ってしまうんです。それではいつまでたっても、自分の技術として蓄積しないように思えます*2

*3

*1:これが著者が常々言う「もっと抽象的に」ということだろう

*2:これは他人からの評価に翻弄されない、自己意識の確立のススメの理由ですよね

*3:個人的に「良問」についての定義、学会って何をしているのか、というところも興味深かった