真夏に読んだ真冬の物語

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

エレンは不安を覚え、警戒を強めた。何事につけても「ぼくたち」というルージュの癖は、双子の妹が死んだあと一年以上も消えなかった。いままた、あの言いかたが戻ってきた。まるで亡霊が口に宿っているように。

解説ではそう、この小説はサディーとアリの物語であるとあるが、kiaoはサディーはともかくもう一方は、かつて誘拐されて帰ってこなかった双子の妹という過去の傷を引きづり続けてきたルージュの物語であると思っている。
警察捜査のパートではアリやアーニーの描写が増えていってルージュに割く記述が相対的に減ってはしまっているのだけれど、それでもこの事件によって大きな影響を受けるのは時間を越えて2つの事件の決着をつけることとなるルージュだろう。
本書を読んでいて一番身震いしたのは、サディーがグウェンを助ける瞬間(反転)だ。読んでいる者にうれしい裏切りを与えた瞬間、かつそれが後に分かるラストの複線にもなっていたという重要なシーン。ここに震えることが出来るかどうかで、この小説を楽しめるかどうかが大きく分かれるのでは。