かわいいものには棘がある

青年のための読書クラブ 1 (Flex Comix)

青年のための読書クラブ 1 (Flex Comix)

……叔母さん
あたし かわいいって言われるのキライよ
それって人間扱いされてないもの
(P-134)
タカハシマコ 「かわいい家族」 (『女の子は特別教』収録)

 まさか、『乙女ケーキ』の帯自体が複線とは、思いもよりませんでした。すでにその時点で「タカハシマコ×桜庭一樹」が始まっているとは……。

 タカハシマコの新刊が読めて非常に嬉しいです。ただ、コミックの紙質がいいものではないので、その点だけ残念でなりません(タカハシマコの繊細な線がもったいないです)。

 タカハシマコの描く女の子のかわいさというのは、徹底して「お人形」としてのそれです(これはちょうど本人の趣味(フィギュア収集)とも相まっていますね)。
 作者の出自と照らし合わせ、彼女が描く女の子たちは読者のリビドーを突き動かすために造形されている、……ように一見囚われがちです。
 しかし、よく見てほしいのです。よき例として(本書の表紙でも良いですが)モブとして描かれている女の子たち。彼女たちは皆かわいらしい。しかし、大きく見開かれたその瞳は、かわいらしさという記号を纏うかのように、真っすぐで、大きく、ある種の力強さと冷たさを兼ね備えた、共通した描かれかたをしています。徹底して記号としての、造形としてのかわいらしさなのです。
 <拳で語る姉妹だった*1><少女にはなったことはあるから(一応な…)手ばなしで大好きなんて言いたくないのね。*2>との言説からも理解できるように、タカハシマコは女子の「かわいらしさ」というものに対して、純粋な(うぶな)感情を持ち合わせていません。だが(だから)、造形としての「かわいらしさ」なら信じられる、そして「かわいらしさ」の裏には必ずそれが覆い隠している「何か」がある、ということを色々な形で演出してみているのです。
 この『青年のための読書クラブ』は、その世界観からして、徹底した構成としての(それは自覚的なフィクショナルとしての)「かわいらしさ」を目ざして創られています。だからこそ、タカハシマコの描く「かわいらしい」女の子が、この世界にはとてもよく似合っているのです。


 1ということは、2巻が出るということですね。とても楽しみです。

乙女よ、永遠であれ。
人よ、楽園をけして、徒に脅かすことなかれ。
(P-94)

*1:タカハシマコ『冷たいお菓子』 (P-71)作品解説 「夏休みの隣人」 より

*2:タカハシマコ『野いちご心中』 (P-168)「あとがき」 より