「お前 本当に5歳児か?」

アニマル横町 1 (1)アニマル横町 2 (2)  りぼんマスコットコミックスアニマル横町 3 (3)アニマル横町 4 (4)アニマル横町 5 (りぼんマスコットコミックス)アニマル横町 6 (りぼんマスコットコミックス)
これは子供向けと見せかけて実は大人のマンガ読みの鑑賞にも堪えうる作品だ。ボケにドリフやナポレオンズや麻雀や男塾といった対象年齢層にはあきらかに通用しないネタを持ち出したり、ストレートなボケや変化球、シュールなものやメタ的なものまでなんでもござれ、すべての力を使って読者に真剣勝負を挑もうとしている。こういう姿勢は好感が持てるし、案外真剣に読者と向き合っているかどうかを(子供であっても)読者は敏感に感じ取るものだ。こんなおもしろいマンガを子供たちだけに楽しませておくなんてもったいない。マンガがもつ基本技術の大部分をこの作品から学び取ることができるお手本的な作品でもあり、良作。
また、マンガが固有に持つ「フレームの不確定性」というものの違いを確認する上でも大変興味深いものとなっている。

そして、少女マンガは七〇年代の「多層的なコマの構成」を経て、さらにそれが簡素化した方向へ進む。ここでもし「劇画―青年・少年マンガ的」なるものを コマからコマへと、一直線に連続する線条性に求め、それに対する形で「少女マンガ的」なるものを定式化するのであれば、それは「紙面」上にいかに「言葉」を散在させ、その配置によって情感を表現するかに求められるだろう。
伊藤剛「マンガのリアリティ」伊藤剛著『テヅカ・イズ・デッド』二三三項。NTT出版、2005

アニマル横町(以下アニ横)」単行本はページ数を埋めるために各巻に一つずつ短編マンガ(「アニ横」連載以前の読みきり作品)が掲載されている。これらの作品は典型的な「ガール・ミーツ・ボーイ」もので、ここで見られるのはこれまた伝統的な「言葉」がまさに「詩的」な意味を持つ、枠線の撤廃や多層的なコマの重なりといったことが、同化しえないはずの「カメラ」と「内的モノローグ」の同化が推し進められたコマのフレームワークの展開だ。
しかし「アニ横」ではかすかにその面影を見ることはできるけれど、基本はカメラアイが意識され、かつコマの連続が明確なコマ構造を取っている少年マンガ」的構造をとっている。それはジャンル的な違いからくる必然性であり、「内面性」を詩的に演出することを効果的とする「恋愛もの」から、「コマ割りのリズム」を重視し「笑い」にとって不可欠である「テンポ」の緩急を自在に演出させる必要がある「ギャグもの」へと変容するための手法の違い、それが普段少女マンガをあまり読まないkiaoのような人間にとってもとっつきやすさを生み出す。
そしてそれだけにとどまらず、コマ自体を使ったネタもたびたび用いられ、その使い方には舌を巻くものがある。
例えば3巻に出てくる「マツモトさん」のネタ。キリン(!?)のマツモトさんは首が長くてコマの上辺にいつも収まりきらず、顔を見ようとキャラたちが目線を上げると「徳のオーラ」により後光が差して、その顔を確認することができない。そこでキャラが出した提案は、

イヨ(ウサギ)「マツモトさんサイズ小さくできるって言ってるよ!」
アミ(女の子 5歳児)「え (そんな事が!?)」
ケンタ(クマ)「(う〜ん) でもそれをやると (ごにょごにょ)」
アミ「え なに? なんか都合悪いの?」
ケンタ (そういうんじゃないけど)
次のページ
ケンタ「コマも一緒に小さくなるんだよな〜」
小さくなるマツモトさん しゅるるるる……と効果音
アミ「えっ」
マツモトさんとともに連続してコマも小さくなってゆく。それとは対称的にアミとケンタは大きさ変わらず。だんだん狭苦しくなってゆく。

コマが小さくなってできた余白にはイヨとイッサ(パンダ)「わー」。矢印で〈非難していた2人〉

ここではコマ(フレーム)自体をネタにして、なおかつキャラがそれを認識している形をとっている。それによってカメラが切り取った「世界の一部」としてのコマが、コマ自身が世界そのものである「空間」として存在し、その役目・アイデンティティを逆転させている。
そしてさらに注目すべきところは、イヨとイッサの立ち居地が完全なメタではないということだ。さきほど「アニ横」を「少年マンガ」的構造を持つと言ったが、完全にそうではない。一般的な「少年マンガ」は場面と場面の違いを区切るのに「(現在の)コマの枠線」「空白」「(次の)コマの枠線」としているものが主だが、「アニ横」はコマの枠線がある部分と枠線なしでコマとするもの(機能は枠線のあるコマと同等)が適宜に組み合わさって1ページを作る。よって、場面と場面の違いを区切るものが「(現在の、もしくは次の)コマの枠線」のみなのであり、ここが「アニ横」にかすかに残る「少女マンガ」的構造の残り火なのだ。
結果、読者は枠線のないコマでも枠線のあるコマ同等の読みに慣らされ、さきほどのマツモトさんのネタでのイヨとイッサの立ち居地が完全なメタではない、言うなれば「半メタ」的なものとして存在しうるのだ。

とまあなんだかぐだぐだ書いていたら疲れたので、もうここらへんで。子供向けと侮っていると、その「マンガ」としての密度の濃さに驚かされる。ていうかおもしろいから、これ、ほんとに。

追伸
集英社デジタルマンガ マンガオンライン 『アニマル横町』
↑ここもすごい。ここの第8話で「マツモトさん」の話が見れる(デジタルマンガだから、コマの概念が多少違うけれども)