ひとは禁止されると、逆にやってみたくなるもの!?

怪盗ニックを盗め (ハヤカワ・ミステリ文庫)

怪盗ニックを盗め (ハヤカワ・ミステリ文庫)

「何も?」ニック・ヴェルヴェットが信じられないように、繰り返した。
「ああ、何も盗んでもらいたくない」太った男はニックの反応ににこっと笑った。(…中略…)「もし、きみがうまくやってくれれば、その次の木曜日も同じ料金で雇うかもしれない」
「うまくやれないわけがありますか?」
太った男はまたにこっと笑った。よほど笑うのが好きなんだろうなとニックは思った。

   「何も盗むな!」エドワード・D・ホック『怪盗ニックを盗め』より

小気味よくサクサク読めるので気持ちいい。短編はこれくらいの文量がちょうどよい。
ニックは一般的に価値のないもしか盗まないので、依頼が来た時点で5W1Hの中のWhy(なぜ依頼人にとって価値があるのか?)が提起され読者の興味を引き、物語世界へ導く早さではまさに短編向き。そしてそれにHow(どうやって盗むのか?)もしくはWhen(いつ盗むのか?)が付随する。

2巻の内容を大別すると、
盗んだモノ自体になにか(物、情報)が隠されている〔怪盗ニックを盗め ヴェニスの窓木のたまご 児童画の謎〕盗んだモノを使って何かを得る〔ワシ像の謎 謎のバーミュ ダー・ペニー シャーロック・ホームズスリッパ〕それを排除する(盗む)ことにより何かを得る〔海軍提督の雪・何も盗むな〕盗んだという事実自体が重要なこと〔プー      ールの水を盗め クリスタルの王冠〕それを盗むことによって何かを妨害すること〔聖なる音楽*1

たびたび命の危険にさらされるのに一件につき2万ドル(危険な時は3万ドル)とは格安である。30年前とは物価が違うからよく分からないが、後に物価があがっても依頼料を変わらなかったのだから、据え置き価格というか、もはや職人だ。そう、30年前の作品であるが古臭さは全く感じられない。最期の一行にひねりを効かせたものが前巻と比べ増えた気がする。

お気に入りは〔海軍提督の雪〕。それはないだろと思ったのが〔謎のバーミュダー・ペニー〕。

*1:すでに忘れかけているものもあるから、違うかも