たしかに。こんな講義ならモグリになっても受けに行きたい。

東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編

東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編

菊地成孔大谷能生が2004年東京大学教養学部の非常勤講師として行った通年授業「十二音平均律→バークリー・メソッド→MIDIを経由する近・現代商業音楽史」の講義内容を書籍化したもの。この歴史編は通年講義の前期分にあたる。
この講義を通してのテーマは、「音楽の記号化」。
本書の内容は、その性質から50年代〜80年代のジャズ史を中心に展開される。批評家が行う音楽の歴史編纂というものは世に溢れているが、演奏者による歴史変換は、そのスポットの当て方がプレイ面・音楽理論的アプローチからあてられているのが興味深い。
今までジャズ黄金時代と呼ばれていたのがその頃だという知識はあったのだが、それが系統立てて理解することがなかなかできなかった(ジャズ詳しくないもので)。そういった点で、あまり深くは突っ込まないし、あくまで一つの観点ではあるが、一本の筋を通してその流れを理解できたのはよかった。
個人的な収穫は「モード」がこの本でどういうものかようやく理解できたこと。これは一言でいうのは難しいのだが、あえていうと、「モード」は完全にアンチ・ビバップであり、普段我々が耳にしている音楽を構成するコード進行、コード間の主従関係(いわゆるバークリー・メソッド)とは違い、一曲内における異なる二つのモード間には主従関係はない、ということ。マイルスはモードというシンプルなルールに従って曲を作ることで、即興演奏の規範自体を更新することに成功した、ということだ。
一般学生向け授業ということで、マニアックに陥らず、非常に分かりやすい内容になっている。