その失い続ける人生が―――私自身だからだ。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

二つの物語がどのようにリンクするのかがわかる下巻。そして判明した後から、それまで読者の目を引っ張ってきた「ハードボイルド・ワンダーランド」、深く静かに時が流れてゆく「世界の終わり」の関係が徐々に変わってゆく。「ハードボイルド・ワンダーランド」はすべての力を使い果たしたかのように、深く静かになって「終わり」という名の安定へ落ち着こうとしてゆく。反対に、間違っていて、不自然で、完全である「世界の終わり」にいた「僕」が、この世界について、心についてどうすべきなのか思い、動きだし、その行動が「ハードボイルド・ワンダーランド」の「私」をも飲み込んでゆくことになる。
開いた物語は、やがて閉じてゆく。
最期に「僕」のとった行動は、ほんとうに正しかったのだろうか。そうかもしれないし、よくわからない。

自我(影)を不完全なものに背負わせてつくる完全な世界。「たとえなにがあったとしても、すべては僕が生み出したもの。だから僕は、責任を果たす。」これが「僕」のとった、この世界とは違うもうひとつの〈自我(この世界を捨てて、もとの世界へ戻る)との決別〉なのかもしれない。(反転)

どうしよう。村上春樹は初期三部作とコレを読むことに決めていたのだが、先に三部作のほうを呼んでおけばよかった。コレを先に読んでしまっては、無意識な比較によって、次の作品読むときに、それを満足に足るものとしてきちんと受け入れることができるのだろうか。まあ、次はいつ読むとも知れないのでいいか……。

蛇足:上巻にあったサンドウィッチの描写がとてもおいしそうだった。ので、読んだあとすぐに買いにいってしまった。