少女の成長

ミヨリの森

ミヨリの森

母親が塾の先生と逃げていってしまったため、遥か彼方の父親の田舎に預けられることになったミヨリ。生きることに悲観的で他人との接触を好まない少女が、家の近くにある山で精霊たちと触れ合ってゆくうちに、母親も父親もクラスメイトたちも信じられなくなっていたミヨリの心に変化が生じてきて……。
ミヨリは芯の強い子供であって、自分の中に美意識があるのだろう。だから、母親が母親の役目を果たさず若い男(塾の先生)と蒸発したのも、気弱で母親を捕まえておけなかった父親も許せなかったし、クラスメートのイジメで孤立しても怯まなかったのだ。
しかし誰にも弱音を吐けないからこそ、森にある桜の大木の下で見た夢の中、父親や母親と塾の講師を銃で撃ち殺し、涙を流していた。その涙の夢をモグリという精霊が吸い出してくれたのだった。
ちょっと冷めた都会の子供が田舎に行ってだんだん心が開かれてゆく、と書くとどこかしらで聞いた感じはする話だが、小田ひで次の丁寧な描写によってなかなかの良作のビルドゥングスロマンに仕上がっている。この森のイメージはファンタジーだ。本当の森は、何も与えてはくれないし、何も奪い取ろうとしない。ただ、そこに住む命の循環の場であるだけだ。

他人を理解することは、他人を許すことだと気づいたとき、ミヨリは大粒の涙を流す。