バーナビー・ロス第二作

Yの悲劇 (創元推理文庫 104-2)

Yの悲劇 (創元推理文庫 104-2)

さすがにおもしろかった。オールタイムベストに入る理由がわかる。意外な犯人に意外な動機。しかし最期にレーンがその事件を究明するように、手がかりは少しずつ残されている。そして犯人の正体に確信がもてるほど、レーンはその真実に戸惑いを感じずにはいられなくなる。
最期にサム警部が「え、レーンさん?私の言うことがわからないのですか?」と詰め寄るのだが、ここでようやくレーンのこの台詞「ところで、私は法律を文字通りに支持する義務はなかったし、(…中略…)彼にも当然自分の運をためす資格があると思ったのです!」の意味の重みがわかった。そしてその彼は不運な行動の結果、それに対する措置(もしくは制裁)を受ける羽目になった。たしかに読んでいてよく分からない記述*1があったのだが、真相を知り、再度読み返すとレーンが何を企てていたのかが想像できる。

最期の真相が明かされるところはページをめくる手を止められなかった。が、途中は少しだれる。いや、だれはしないのだが読書のテンションが落ち着きすぎる。予定通りに事件が進んでゆく感はある。これは作品のせいと言うよりも、本格モノの構造がもつ性質によるものだとわかってはいるのだが。それでも、最後の最後までいつになったら謎が解かれるのだろうとハラハラはした。

この事件は、ハッター家やそれにまつわる人々、そしてドルリー・レーンにとっても「悲劇」でありそれは「Y」の思惑をもこえる「事件」となってしまった。

犯人の動機の半分は、現在だったら怒られるかもしれない(誰に?)、当時だからできた設定かもしれない。なんてったって「エミリー・ハッターの血に拠るもの(反転)」だものなぁ。

やはり、過不足のない丁寧な小説だ。作品の幕の下ろし方も秀逸。痛ましいこの〆方で、「Z」はどうするのだろう。ほんとに。

*1:371P 「夕刻、七時十五分前に、彼(レーン)はそっと運転手のドロミオに合図した。ドロミオが彼のそばにより、ふたりは何か小声でささやきあった。やがて、ドロミオは家をぬけ出していったが、五分ばかりたつと、にやにや笑いながら戻ってきた。」  373P 「あっという間のできごとだった。思わず吸い込んだ息を吐きださないうちに、もう終わっていた。襲いかかる蛇の一撃のように、電光のように相手を麻痺させる瞬時の出来事だった」