舞城=トム・モレロ説 奇抜なサウンド感覚を持つ両者

みんな元気。
表題作「みんな元気。」についてはこちら

以下、その他の収録作品について。

「Dead for Good」
「俺」がもう物語には登場しない「兼益伸介」との思い出と絡めながら、なんかしっちゃかめっちゃかやってる話。この二人のぶっ飛んでいて一貫性のない行動がおもしろい。例えば、利緒(女友達・彼氏あり)が「実はあんたのこと好きなの」→じゃ、とりあえず俺ん家来い→彼と俺の家の前まで来る→俺、なんか包丁もってバスタブに引きこもる→女、ドアをガンガンノック→俺、警察通報。「誰か騒いでんすけど」→利緒が俺の携帯鳴らす→俺、無視  みたいな

「我が家のトトロ」
舞城流、理想のホームドラマ。どこか頭のネジが一本抜けちゃったような、底抜けに明るい話。「陽」だけでなく子供が持つ「陰」の部分でさえ、そんなもん当たり前じゃん、と愛情の放り投げ。そして、ステレオタイプな理想の家族よりもよっぽど健全。舞城から「トトロ」に対してのひとつの答えが提示されている言及あり。

「矢を止める五羽の梔鳥」
ストーリーはあまり理解できなくてもよい。たった15Pだけれど、舞城節がギュッと凝縮されている。意味があるようなないような謎解き、なんか巷では殺人事件が勃発しているんだけど特に解明とかはしないという主人公の特別性の忌避、「やめれやこら」「意味ねえって」バシーンファビーン「のり付け」ぬわーん。舞城のドライブ感あふれる文体を堪能すべし。一番笑った。

スクールアタック・シンドローム
なんか心の病気みたいで半年もふかふかソファの上に引きこもっている俺。女は出ていって、なぜか大男が俺ン部屋入ってきて襲ってきたから左耳喰いちぎって撃退してやって、前妻から子供の様子が最近変なのと電話が来て、巷では高校生3人による600人以上大量殺人事件が話題で、心配して来た友達はその大男追っていって…。本書のなかでは一番メッセージ性が高い作品。といっても登場人物に直でそれを独白させてしまっているため、説教臭いといえばそう言えなくもない。けど、そんなに嫌ではない。というのも、意見に対して自分で相対化できているし、「俺」が「崇史(息子)」に諭す時も力が入ると「《親父モード》入って説教すんなや」って見透かされて、あれ〜っと思って「これはつまり、口ばっかで物を言うな、役割で物言うな、本気で思っていること言えっていってんじゃんか」となんとか推測すると、ちゃんと伝わったりする部分など好感がもてる。独りよがりじゃない、押し付けじゃない、愛情。

舞城めちゃくちゃ脂のってるな、という感じ。気持ちいい。