純粋なる思考実験

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

実験からパロディまで、あらゆるマンガの手法がすでに出尽くした、と言われている今現在。それが単なる思い過ごしに過ぎない事を実証しそうなこの傑作をライブで読めるのは、同時代の「漫画読み」としてまさに至福の体験です。
ああ、早く続きが読みたい。

帯にあるこの文句が気になり、「そこまで言うのなら読んでみようか」と煽られてみる。全体の印象としては、そこまで斬新なことはしていない、が、手堅く作っているなという感じ。
この1巻には「げりみそ」「酢豚」「教育的指導」の各3話が前・後編に分けて収録されている。「げりみそ」「酢豚」はなぜ、生徒がそんな問題(行動)を起こすのかというホワイダニットな、日常の謎的なミステリーと呼べるかもしれない。「教育的指導」、こちらは題材こそはありきたりだが、その着地点が一ひねりしてあって興味深い。
この本を読んでいて感じたのは「ヤジロベー」。一見普通の中学校生活に、作者の手でちょっとした衝撃を与えることによって、それを大きく揺さぶらせる。その揺さぶられたものが、徐々にそのふり幅を取り戻してピタッと元の位置に収束する様を、読者は楽しむ。
だから、ここで起こる諸問題は少しワザとらしい。ではワザとらしかったら見る価値がないのかといったら、そうでもない。なぜなら、人の手によって人為的に衝撃を加えられなくとも、ある時突風が吹いたり、地面が揺れたりして、その「ヤジロベー」が大きくバランスを失わないとも限らない。そんな時、「そのふり幅を取り戻してピタッと元の位置に収束する」には、その方法を頭の中に思い浮かべることができなくてはならない。それを訓練することが、思考し、頭の中で実験を繰り返すことの意味だと、kiaoは思う。