生きることと生きつづけること

ヨイコノミライ完全版 4 (IKKI COMICS)

ヨイコノミライ完全版 4 (IKKI COMICS)

綺麗なままでいるには どれくらい汚れればいいのさ?
またひとつ僕の中で 何かが崩れ始めてる

J 「A FIT」

とりあえず、本当にお疲れ様と言いたい。与えられたチャンスに、限られた枚数の中で、最良の結末を迎えたと思う(まあ、作者ではないから、他の選択肢をそれほど吟味したわけではないが)。

この作品では、現実を拒否する者、現実の苦痛をさい舐められながらも、それでも小さな一歩を歩みだした者とに大きく分かれた。

夢を叶えるために若者が奔走するというテーマで、日本橋ヨヲコの「G線上ヘヴンズドア」という傑作がある。その中で主人公が終盤間際に言った台詞で、印象的なものがあった。

「夢が叶わなくたって、人は幸せになれる」

この言葉は、ちゃんと意味を汲み取らないと危険なものになる。もともと叶うかどうかも妖しいものに振り回されて、醜態をさらして、何にも得られなかったら馬鹿みたいじゃん。だったら、そんなもの初めから持っていなければいいのに、見苦しいな…というニヒリズムのススメなどでは決してない。

夢を持っていない人間が劣っているということとは、断じて違う。ただ、現実に傷つけられて、夢を持っていた自分を憎むようになるのは、悲しい、ということ。だから、叶わなかった夢は無駄ではないし、叶わなかった夢があっても、人は幸せになれる、ということを言いたいのだと思う。

成功に成功を重ねて、わずかなミスも許されず、ジェンガのように高みへ上り詰めてゆく。それは美しさとともに、常に崩壊という狂気を孕んでいる。

崩れたあとのジェンガには、いったい何が残っているのだろうか。

kiaoの尊敬するアーティスト、Jの「ACROSS THE NIGHT」という曲がある。

壊れたのなら また最初から 創り始めればいいさ
夢を見続けて 朝がくるまで ずっと

J 「ACROSS THE NIGHT」

そもそも、夢は1つしか持ってはいけないのだろうか。失敗したその次の夢を追いかけて、それを掴まえてみようとしても悪くはないのではないか…。

自分の理想を皆で共有したいと、足掻き、苦しみ、しかし結果的にはサークルを、メンバーをばらばらにさせてしまった井之上。しかしその中で、居心地のいいぬるま湯では決して踏み出すことのできなかった、小さな一歩を、歩むことができた者もいた。

井之上は言う。

「青木さんの夢は…漫画家?」
「そう、…だった。」
「僕の夢は、サッカー選手でした。その後、漫画家で、今は編集者です。
青木さん。夢はつぶれたり、消えたりするものじゃなくて、ただ、形を変えるだけなんです。
16歳の青木杏さんの、今の、夢は…?」


いつか願いが叶う、その朝がくるまで、ずっと…。