顔を使い分ける短編集

二人がここにいる不思議 (新潮文庫)

二人がここにいる不思議 (新潮文庫)

短編集。本書の収録作品を大きく2つに分けることができる。一つは、憂いを帯びた瑞々しい文体で見せるもの。もう一つは、おもしろおかしいコメディ調のもの。そのどちらも、十分に楽しめた。
前者で印象に残ったのは「恋心」

それから、口と鼻を使うあの魔術。唇のあいだから煙となって泳ぎだす精霊、魂たち。たしかに火と想像力が生み出す魔法の生き物だ。彼女はすばらしい精神力で空中に輪郭を描いていく。澄みきった非凡な心があればこそ、くすんだ桃色の火を飲み、精妙で非の打ちどころのない構造を鼻孔からつむぎだせるのではないか。本当の天才だ。

これは、死滅に瀕している種である火星の民シーノが、地球人(彼らの死滅を招いた要因とされている)である女を、彼女の家の窓越しから覗いたときの描写。単なる喫煙という行為を、全く異なる生物から見たときの不思議さ、焦がれる様子が、同じ地球人側(読者)にもありありと想像させるこの力、溜息が出る。

後者において印象に残ったのは「十月の西」。ある吸血鬼ファミリー(本文では明確に言及してはいないが、解説からも判断して)が存在し、その中でも最も魅力的な力を持つ少女・セシイ。彼女は他人の魂を飛ばす能力を持っていて、今回もまた彼女に魂を飛ばしてもらって遊ぼうと、4人のいとこトム・ウィリアム・フィリップ・そしてジョンが夏の終わりごろからファミリーのもとに転がり込んできた。だが、彼らが肉体を脱出して遊んでいたところ、納屋が不審火により全焼。帰るべき彼らの肉体がなくなってしまった。
今後のめぼしがつくまで、それまでの彼らの受け入れ先の話が持ち上がり、嫌がるファミリーの連中のなかで白羽の矢がたったのはじいさんだった。じいさんは、こんなワルガキどもが、しかも4人も自分の中に住まうなんてゾッするとして拒否するが、一家の長であるバアさんの鶴の一声で決定。以下、その時の台詞。

「あんたは朝を唾吐き、昼を削ぎとり、夜を飼い殺しにしてる。いい若者たちがセシイの上のフロアに住んではいられないじゃないの。無作法だよ、暴れん坊いとこが四人もきゃしゃな娘の頭のなかにいるなんて」

この後、十月の西の里にいる親族を頼りに、じいさん(+頭の中のいとこ4人)とセシイが列車に乗って向かうのだが、その道中でのゴタゴタがおかしくてしかたない。

こんな雰囲気の異なる作品を、自由自在に書き分けるブラッドベリに脱帽。ぜんぜんSFしていなかったで安心*1。おもしろい短編を書く人は、kiaoの中で高ポイント。他の作品も気になる。

*1:SF体性が全くないので、ちょいとハードなSFをやられると、知識がたりないため、おもしろいものでもそれを十全に感じ取ることができない。SFはもっと読書暦が長くなってから挑戦しようと思っている