隠し味には、少々の不思議を使いましょう

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

この海に浮かぶ道路は、いったいどうやって作ったのでしょう。
(…中略…)
波に揺さぶられることなく建物がみんなちゃんと建っているのはどうして?
そこにまったくのひとりぼっちで暮らす、十二歳くらいの女の子。海水のなかの道を、ふつうの地面みたいに、すたすたと木靴で歩いてゆくこの少女は、いったい?

短編集。幻想に満ちたもの、不条理なもの、少し不思議な10の話を本書は収めている。何よりもいいのが表題作でもある「海に住む少女」。大西洋のどこかに存在する、辺り一面海原で覆いつくされている海の町。誰が作ったのか、なぜこんなところにあるのかもわからない。町は、船が近づくとまるごと波の下に沈んでしまう。そこにたった一人存在している少女。少女はどうやって生活をしているというのか…。この設定が素晴らしい。この話が本書の魅力の半分くらい占めているといっても過言ではないはず。天野こずえに描かせたら、さぞ幻想的で少しせつなく描写してくれることでしょう。ここで荒木飛呂彦に描かせると、「幻想」が「奇想」に鞍替えしてしまいそう(笑)。少女があることに気づくあの瞬間に「……ドドドドドドドド」ていきそうだし(でも、見てみたいわ)。
あとは、「セーヌ河の名無なし娘」もすてきだ。というか「夏と花火と私の死体*1」。

*1:未読