誰一人として残らず、皆キ印なのだ。
- 作者: 夢野久作
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1976/10/01
- メディア: 文庫
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「……お兄さま、お兄さま、お兄さま、お兄さま、お兄さま…お隣の部屋にいらっしゃるお兄さま……あたしです。あたしです。お兄さまの許婚だった……あなたの未来の妻でしたあたし……あたしです。どうぞ……どうぞ今のお声をモウ一度聞かして頂戴……聞かして……聞かしてエーッ…お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、……おにいさまアーッ……」
史上最強(狂)の妹キャラなのでは(笑)。まあそれはそれとして、誰かが言っていたように「ちゃかぽこ」あたりから俄然おもしろくなってくる。本書が奇書と言われる所以は、徹底的なる「常識的な価値観」の転覆を企てているところだろう。唯物世界に対する精神世界の逆襲、脳髄が人間の躰を支配下に置いているように見せて、実はそのように思い込ませている脳髄自体の策略だったり、現実と夢のなかでの時間密度の相違・記憶の伝承etc…。ここでは科学的(医学的)概念(ツール)でさえ、隠微な世界を構築するためのものでしかない。
京極作品を読んでいると、本書のような妖しさに対して耐性がついているかもしれない。だが、それでも本書が徹底的に「濃い」ことはわかる。
下巻に続く。
蛇足:今たまたま聞いているZAPPAの「THE TORTURE NEVER STOPS」がものすごく作品の空気に合う気がした。