甘く、脆く、儚く
- 作者: タカハシマコ
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2007/06/18
- メディア: コミック
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「きっともう彼女は忘れていると思うけど
私は一生忘れないわ
とてもうれしかった
暗闇に一瞬だけ光がさしたようだったわ」
タカハシマコ「氷砂糖の欠片(「乙女ケーキ」収録)」
タカハシマコにオンナノコを描かせたら天下逸品。帯が桜庭一樹だったのには驚いたけれど、言われてみれば納得*1。
たぶん、タカハシマコ自身には百合属性はないんじゃないかと思っていたけれど、あとがき読んだら、やっぱ当たってた。まあ、オンナノコという包括的なテーマで話を描けば、その中に存在するはずの百合というジャンルにひっかかりはするだろうから、大丈夫でしょう。
で、肝心の中身といえば、…素晴らしい。基本的にkiaoにとっては、タカハシマコは絵だけでも十分堪能できるのだが、話のほうでも抜群によい。
「乙女ケーキ」のような百合ど真ん中な作品も、「ぬいぐるみのはらわた」のようなオンナノコのしたたかさを描いた作品も、「タイガーリリー」のようなマンガでしかできない表現も、「氷砂糖の欠片」のように百合とかジャンルを超えて光彩を放った作品も…。
特に「氷砂糖の欠片」は、甘く、脆く、儚く消えていってしまう「オンナノコ」というものを氷砂糖に重ね合わせ、その氷砂糖が起こす“ある一瞬の現象”を用いて、時を経てさえ心の中に残存する光を表徴している。本当は冒頭の引用文もその部分も含めて用いたかったのだが、そうするとこの話のほぼ全てを書いてしまうので抑えた。この話は本当にすごい。
百合系の話に出てくる登場人物のほとんどが学生(ティーンエジャ)なのは、それがレズビアンなのではなく、あくまで百合なのだからであろう。
少女が異性を意識し始め、心事が男性に占められていくにつれ、羽化するように少女は女へと変貌を遂げる。その少女が羽化する直前の、オトコノコが触れたくても触れられない期間、故に「オンナノコ」に最もちかい「オンナノコ」だけが触れることを許されるという特権・その行使、それが「百合」と呼ばれるものの正体なのではないのだろうか。
百合というものは、いつか消えてしまうものを消えないうちに、今だけは感じていたいという想い。だからこの作品に登場するオンナノコたちも、想いをよせるオンナノコがいつか男のもとへ行ってしまうことを(本人が表層では気づいていなくとも)せつせつと感じながら、今だけはそのオンナノコの最も近くにいられる特権を使い続ける。それがいつか消えてしまう日まで…。
この単行本に収録されている作品のうち、「夏の繭」だけちょっと表現が強い部分があって、kiaoもあれ?と思ったのだが、それもあとがきを読んで解決。タカハシマコは、雑誌「百合姉妹」の創刊に合わせて原稿をあげたその後、創刊されたその雑誌を開くまでそれを「成人向けの本」と勘違いしていたらしい(笑)どーりで(そして百合属性がないからほとんどエロくなっていない(笑))。