言葉の伝播と独立性

タビと道づれ 1 (BLADE COMICS)

タビと道づれ 1 (BLADE COMICS)

「友達」は アイスをわけあうものなの!!
(…中略…)
わけるから友達なの
わけるとお互い両方に半分ずつ残るから アイスも言葉も
お互いわけあって同じものでつながるから 離れてても大丈夫なの

言葉は力を持つ。
言霊とかよく言うけれど、そこまで大げさに考えなくても、普段そこらへんに散らばっている言葉の中に、ふと人の心をはっとさせる何かは潜んでいる。
言葉の力。言葉は発言者によらず、その言葉自体に意味があるのか?それとも、同じ言葉であっても発言者が誰であるかによってその意味が大きく違うものなのか?…おそらく、その両方の側面を持つ。

何かの力によって外部へと脱出できない閉ざされた町。今日あったことが昨日にならない、同じ一日を繰り返す町。ある日とっさに学校とは反対方向の電車に乗ったタビは、たどり着く。その奇妙な場所へ。
タビは女の子。タビは他人との距離をうまく測れない。この奇妙な町へたどり着いたとき、最初に出会った人間であるユキタという少年とニシムラという警察官(そして彼らはこの町が同じ一日を繰り返すことを知っている人間)。彼らとお互いを知るためのコミュニケートさえままならない。

わかっているのは名前だけ。
(…中略…)
ユキタという名前の後に続けるべきなのは…
「さん」なのか 「くん」なのか はたまた呼び捨て?
わからない

「…友達なの?」

そんな彼女に苛立ち、ああもーめんどくせー奴だなぁーという調子でユキタはその場で買った棒付きアイスをタビに分ける。

「ほい
同じアイスをわけあったら「友達」だ!」

この時、タビはアイスとともにわけあっていたのだ。言葉も。ユキタから移ったその言葉はタビの心へと漂着する。言葉自体が持つという力を内包したまま。

その後タビとユキタはあるモノに出会う。そのあるモノも、「友達」を欲していた。だが、それは歪んだ友達の形。二度と自分から離れていかないように、自分だけの場所へ彼らを閉じ込めておくという歪んだ…。

そんなあるモノに、タビは言う。「わけるから友達なの。離れてても大丈夫なの。」と。
タビは信じていた。この言葉が持つ力を。その真実性を。
そしてこの言葉はタビから発せられなければならなかった。普通に人付き合いのできるユキタではなく。他人との接し方が、友達であるということがどういうことなのかが、わからなかったタビでなければ。私もかつてはわからなかった、でも今はわかる、と。