かもす…いや脳内汁出さすぞ*1

「ああ、ありがとう!ほんとにありがとう!」
コーティーは、にわかに波が押しよせるのを感じる。肉体的な快感、衝動――
「おいこら、またやったわね。やめなさい!」
「あ、すみません」ほてりがひいていく。「感謝を表す原始的な反応なんです。快感を与えるための。つまり、ふだんのわたしたちの宿主はとても愚かなので、肉体的感覚でこちらの感謝を表すしかないのです」


たったひとつの冴えたやりかた

宇宙空間を一人で旅行中のコーティーは、ひょんなことからある生物と遭遇する。その生物はあまりに微小で、分子間・原子間を通過できるほどだ。そしてその生命の原始的向性として、宿主を見つけその脳内に寄生し、言語中枢を解読し、そうして初めて意識というものを発生させる。
つまりコーティーと会話しているこの生物(種族の名はイーア、もしくはイーアドロン。個人的にはシロべーンと呼ばれている)は、(どちらにとっても)気づいたらコーティーの脳内での寄生・宿主の関係になっていたのだ。
このシロベーンのイメージが、なぜか「もやしもん」の菌類のイメージだった。かもすぞ!!…て、いやいや。

表題作「たったひとつの冴えたやりかた」は、題名がまずいい。主人公を少女にすることであの結末に持っていくのは、ちょっとあざといかな、とも思った。その過程が楽しいのだからいいけれど。ああ、あれ!?コーティーに萌えればいいわけ?
上記のような寄生関係というのは、もしかしたらSF的にはわりとポピュラーなのだろうか(詳しくないので判断しかねる)。イーガンの短編にも同じような生命体が出てきたし。ただ、本書のほうはその異生命体との(ある種皮肉な)友情関係を主としているのに対し、イーガンのほうはその生命体自体が事の真相であったといオチといった違いがあったが。

他に二つの作品。「グッドナイト・スイートハート」は宇宙空間を移動する際に用いる冷凍睡眠によって、人々の生きる時間が大きく異なるようになった時代の、ある男と女のはなし。「衝突」は表題作とは違った形の異生物との意思の疎通、まさに衝突する話。片言の異生物側の言語での死に物狂いのコミュニケートは、熱いものがあった。

このSFのSは、まさに「Space」の「S」だ。