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働きマン(4) (モーニング KC)

働きマン(4) (モーニング KC)

支えてくれていた人たちが 力尽きていなくなっていく
くしの歯が抜けるみたいに
誠実すぎて手を抜けずに 不器用だから割りをくう
そういう人達が

改めて思うこと。安野モヨコの取材力はすごいなと。といってもたぶん実際に足を運んでの取材というのはあまりしてないのではないのかと思う。ではどういう取材かと言うと、想像力という名の取材だ。
働く女・主婦をしている女・畑違いの組織移動によってダウンしてしまったデスク・決定的な別れを切り出せない恋人たち・捏造記事を書いてしまう記者・自分が籍を置く会社のしていることについて罪悪感が拭えなかっただけに退職まで追い込まれたニート。その結果だけを見ればTVやらなんやらでよく見かける人たち。その人たちに「じゃあなんでそうなっていってしまったのか」という想像力を用いて掘り下げることによって、一つ一つが丁寧に人間ドラマとなってゆく。
組織*1という機構の一部分として動けるように、みんな「自分」という素材をその部品に適合するために変形させて、日々やり過ごしている。器用というのはその素材をグニャグニャと容易に変形できる人。不器用というのはその素材がカチコチで容易に変形できない人。
そして人はその変形した後の「形」として他人を見、評価する。でも人は「自分というのはその変形させる前のそれなんだ」と思う。しかしそうは思っていても、自分も人を見るときは変形された後のそれしか見ないし、そうでなければ自分が今参加している社会というものが成り立たないことも知っている。
安野モヨコが「働きマン」で描くのは、その変形される前と変形された後のちょうど中間地点、個人が組織に対応できるよう己を変形させようとする部分、そこで起こる葛藤・齟齬・喜び・達成なのではないか。

*1:この4巻でもあるように、家族でさえ組織というものの一つなのは、言うまでもない。