救済を求める戦い、思想の戦い

LIAR GAME 5 (ヤングジャンプコミックス)

LIAR GAME 5 (ヤングジャンプコミックス)

この巻も相変わらず面白い。電車の中で読んでいたら、うっかり目的地を乗り過ごすところだったほど。
物語の浮き沈みが激しく、絶対絶命かと思いきや思わぬ方法で起死回生を図ったりと、安心する間もなく読者は揺さぶられる。
ヨコヤというアキヤマとタメを張る頭脳の持ち主を登場させることによってどうなるかと思われたが、意外なことに、むしろカンザキナオのキャラを強くさせる作用を持つことになるとは。

私は この時心から
北の国のシステムを潰してしまいたい
…そう思った

LIAR GAMEは莫大な借金を負わされた人たちが、いかにして現金を手に入れてこのGAMEからの脱却を図るかという、いわば個人の戦いにスポットを当ててきた。4巻から始まった「密輸ゲーム」は初めてのチーム戦となったが、密輸・検問で成功・失敗した金は個人に直接影響するというところで、依然として個人的な側面が大きく表に出ていた(だからなかなか団体作戦をとろうとしても、ことごとく穴が空き、うまくいかなかった)。
だが、次第に変わり始める。ヨコヤ率いる北の国チームは、ヨコヤという絶対的権力を持った恐怖政治でもって一枚岩となっている。アキヤマ・カンザキがいる南の国チームも、いろいろな事件を起こしながら、それでも北の国に打ち勝つためになんとか団結に向かう。
南の国チームが勝つために必要なのは、北の国チームのメンバーの引き入れだ。その誘導に用いたのは、もちろんこちら側に来れば金を手に入れることができるという誘惑もあるが、もうひとつ大きな鍵を握っているのは「ヨコヤの恐怖から逃れることができる」という希望だ。

ライアーゲームは嘘つきのゲームではない
あらゆる誘惑に打ち克って それでも正直でいられるかを試されているゲームなのだ…とね
南の国のボスはそういう人間だ


来いよ
南の国へ来い
俺たちの仲間になることが お前が助かる唯一の方法だ

3巻の最後に出てきた、カンザキナオが持つ逆説的な思想。そしてこの密輸ゲームは、その思想が正しいかどうかを証明する分水嶺的な戦いへとなった。
実は物語に出てくる思想は、中身自体はそんなに大切ではない(事実ヨコヤの思想は、そんなに目新しいものではない)。重要なのは、思想を持ち出すこと自体が、物語にドラマチックな要素を持ち込むことができるということだ。

思想は、金・権力・セックスの三位一体に匹敵するどころか、軽く凌駕するメロドラマ的動因足りえる

つまり、そこにあるのは思考ではなく感覚に訴えかけてくるものです。記述が「思想」を持ち込むことによって生じるメロドラマ的な対立を汲み上げて、何を論じているのか、何をめぐって争っているのかを精確に把握できない読み手にも十分に判る、稲妻の光が暗がりに差し込むように不吉なコントラストを造り出している(…以下略…)


佐藤亜紀「小説のストラテジー」

ヨコヤは大金持ちで金に困っていないにも関わらず、代理として途中からLIAR GAMEに参加してきている。そのヨコヤの参加目的はいまだ不明。この戦いが終わったとき、ヨコヤが参加した目的が明らかになるだろう。そしてそれはヨコヤが持つ思想に、何かしら関係があるのではないだろうか。