逃亡する4人

深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))

深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))

「ピストルだけでできることなんかなにもないよ。人々はピストルで死ぬんじゃない。銃には言葉の後ろだてがなければなんにもならない。お前たちは正しいことしているんだという言葉がね」

ビジネスエージェントであり、今回は運び屋の役を負うルイス・ケイン(カントン)、銃の腕はフランスでも3本の指に入るがアル中という爆弾を抱えたボディーガードのハ―ヴェイ・ロヴェル、企業家であり、婦女暴行の罪を着せられて追手から逃れるために逃亡の依頼をしたその張本人マガンハルト、マガンハルトの秘書でありそれでいてなにか気のおけない部分を持つヘレン・ジャーマン。発つはフランス行くはリヒテンシュタイン。はたして彼らは、警察やマガンハルトを狙う組織から逃れ、無事にたどり着くことができるのか。
まさにエンターテイメント。トラブルに次ぐトラブル。一難去ってまた一難。
最初のシトロエンDSでかっ飛ばす光景は「ヴァニシング・ポイント」の映像が脳内で補正されて面白い。スピードフル。途中、身を隠すためにお世話になった家で、過去にカントンと浅からぬ関係にあったジネットとの対話は、古き良きロマンスドラマを見ているみたい。スイスに入るために空港近くの果樹園を忍んで行こうとしたら、まさにそこには国境警備隊が待ち潜んでいて、その網から逃れるために一つ手を打つ様は「スネーク」だったり。途中ダレることもなく、次から次へと問題が発生して、その度になんとかしてそれを解決する。
ラストでハ―ヴェイがたどり着いた状態は、まさに逆説の破滅を示唆する。その破滅をある意味救ったカントンの行動も、皮肉だが確かにこれしかないと思わせるものだ。ハードボイルドっていうの?たとえ相手に恨まれようともそいつを真の意味で救ってやる、表面的でない優しさというのか。甘くないからこそ、優しいのだ。