<唸る剣>ルンディング

ばいばい、アース 1 理由の少女 (角川文庫 う 20-1)

ばいばい、アース 1 理由の少女 (角川文庫 う 20-1)

「託すのさ。俺には辿り着けないと判っている処に、行って貰うために」
男は影法師のように陽を背に受けて立ち、ベルには相手の表情(かお)が判らなくなっていた。
「ああ……こんなことだと思ったんだ。こんなことだと……だから、旅の話は持ち出したくなかったんだ。ちくしょう、ひとの心をいじくっておいて何が教示者(エノーラ)だ。ちくしょう……寂しいよシアン、とても苦しいよ」
「すまんな、ベル、俺を斬ればその苦しみからも解放される」

まずタイトルがいい(むしろタイトルに魅かれて買った)。「ばいばい」というのが幼さを見せながらも別れを想起させ、「アース」が物語のスケールの大きさを感じさせる。そして読んだ。
SFかと思ったら、ファンタジーだった*1
武装するように飾られた地の文と、ベルというこの世界では異端者である彼女の成長を軸に据えた王道の物語の運び、いい意味でマンガのようなバトル展開、これは面白い。
序盤に起こる、師匠との別れ、そして旅立ちに至る過程は、ちょっと胸が熱くなってしまった。

「お前が契約の儀にのぞむは、いかに?」
「旅の者(ノマド)になること!」
反射的に立ち上がらんばかりにして、勢い良くベルが返す。
「何故、それを望む?」
「私自身の由縁を知るために」
自分が広間中の者に注目されているのが判った。まさしくここは一個の劇場であった。
ベルはたたみかけるようにして続けた。
「私が何者で、何処から来て、何処へ行けばいいのか、知りたいんだ。私と同じ種族を探して。そうしなけれがば、私……私は……ずっと一人だから」

旅立ちは、常に知るために行われる。世界を知るため、そして自分を知るため。自分は何者なのか、自分はなぜ此処にいるのか、自分はどこへ行けばいいのか。旅立ちこそが物語(じんせい)の始まりである。果てがあるかも判らぬ、長い〃道のりの……。

*1:いや、別にいいんだけどね。