愛される娘
ばいばい、アース 2 懐疑者と鍵 (角川文庫 (う20-2))
- 作者: 冲方丁,キム・ヒョンテ
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 文庫
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実際に旅に出ようとしているベルや、既に旅のものであるキティの存在こそ、座の一同が等しく旅のものであることを教えていた。送り出す者も、迎え入れる者も、旅する者も、それぞれがみなともに、己の存在(ピッチ)を探し続け、守り続けてゆく旅の者であった。
ベルは愛されているなぁ…。誰にって?そりゃぁ作者にだよ。
「わんぱくでもいい。逞しく育ってほしい」というキャッチコピーが昔あったけれど、作者が主人公の少女・ベルに馳せる思いもそんな感じなのだろうか。そういった気持ちが物語を紡ぐ記述からふつふつと伝わってきた。子を思う親の気持というか…。かわいい子には旅をさせる*1。強く成長してほしいから。だが安心しろ。お前を支えてくれる仲間もひっそりと用意しておくぞ。みたいな。
この物語の世界では異端の生物(どうやら我々のような姿の人間は、彼の世界では存在していないらしい)である彼女には、それでも彼女を認め、友としてともに過ごす人々がいる。認め合うことができる仲間がいる、それは財貨(デナーリ)では得ることができない、かけがいのないものだ。
Wikipedediaの「ばいばい、アース」の項には「文庫版はライトノベル風の表紙になっており、そのことに関する賛否両論も多い。」とあった。…え?これライトノベルじゃなかったの?*2けっこう軽い気持ちで読もうとしていたのだけれど(重厚な気持ちで本を買うこともないが)。たしかに記述に関しては、武装するようにこってりとしてあるけれど、ストーリー自体はわりかしストレートでシンプルなものだと感じたし*3。だからキム・ヒョンテの表紙については、割と肯定派かな。でもこの2巻の表紙の絵は誰?アドニス?えー、これじゃ(ベルが異端とされる由縁となる)人間の姿とほとんど変わらないじゃん。kiaoのイメージでは、もっとこう動物っぽい感じの人かと…。
その少女には、何もなかった。
尻尾(しっぽ)も、鱗骨(りんこつ)も、体毛もない。大きな目玉も尖った耳も、ひげも誇るべき角も何もないのだ。いかなる種族的な特徴も持たぬ、無特徴の特徴。その黒い瞳は周囲に怖(お)じ気ることなく辺りを見渡し、きゅっと引き締めた唇に愛想良く微笑を浮かべている。
ハギスはその月瞳族(キャッツアイズ)の青年をまじまじと見つめた。艶のある純白の体毛に、凍るような碧(あお)の目。その冴やくような容貌(ようぼう)は一見かよわげだ。そのくせ、妙に鋭い雰囲気がある。赤い頭巾(バンダナ)を額に巻いており、それで眉と耳先を隠し、相手に自分の表情を読ませないでいて、油断なく相手の様子をうかがっている。そんな男だった。
*4
上はベルに関しての記述。下はアドニスに関しての記述。ベルはその身体的特徴から「のっぺらぼう」とよく表現されており、そのことから、ベル以外の種族は体毛もしくは鱗といった何らかのもので表皮を覆っているのが普通だと考えられる。だというのに、この2巻の表紙はたんなるイケメンのにーちゃん(笑)だれかキム・ヒョンテに正しい情報を教えてあげて。もしくは人外を表紙にすると売上落ちそうだから?それとも2巻に出てこない人?どー考えてもこの2巻で表紙にするなら、(主人公のベルをはずせば)話の主軸になっているアドニス以外いないんだけど…。
「(…中略…)さらば、我が眠れる日々よ……ああ、以前は適当に他人の要望をどうにかするだけで食ってゆけたのに。今じゃこの我が儘な心が吐き散らす思想というやつが伴わない限り、どんな財貨(デナーリ)も味気ない食物とちっとも酔えない酒しか与えてはくれないんだ」