どっちにしても、日曜が一番えらい人
- 作者: G.K.チェスタトン,吉田健一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1960/01/10
- メディア: 文庫
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サイムは度肝を抜かれて、この取り返しがつかないことばに対して精一ぱいの抵抗を試みる気から、
「私は経験が全然ないんですが」とやっといった。
「誰も神と悪魔の戦いの経験なんかない」と相手は答えた。
「しかし私がこの仕事に適しているとは思えないんで、−−」
「君にその気がありさえすれば、それで充分なんだ」と声だけの男が答えた。
「しかしその気がありさえすれば足りる職業というものがあるでしょうか」
「ある」と相手は答えた。「殉教者はそうだ。私は君に死刑の宣告をしているのです。それじゃ」
チュンソフトのサウンドノベル『街』に収録されているエピソードの一つに「七曜会」というのがあるのだけれど、もちろんそれとは別物。
チェスタトンは長編もいいな。物語の掴みからして、グッと引きつけられるものがある。中盤である程度オチが見えてしまったのはご愛敬だが、それでもこれが凡作で終わらないのは、最後の最後、不可思議というか煙に巻かれたというか、何とも言えない終わり方をしたから。
……チェスタトンの未読小説が、『奇商クラブ』だけになってしまった*1。まあ、読みたくなったら再読でもするか。それに、小説以外もあるし。
「聞いてくれよ」とサイムが異様な声でいった。「君たちに、この世界の秘密を教えてやろうか、それはわれわれがこの世界のうしろしか知らないということなんだ。われわれは何でもうしろから見て、そしてそれはひどいものに見える。あすこにあるのは一本の木ではなくて、木のうしろなんだ。あれは雲でなくて、雲の背中なんだ。すべてのものが前かがみになって、ひとつの顔を隠していることがわかるじゃないか。もしわれわれが前に回ることができたら、−−」
*1:「あれ」は抜かします