リズム・構造・力

ドラムの音色は変わったが、ビートはそのままだった。マニュエルはブラシを放り出し、スティックをつかんでいる。そして、なんの気負いも前触れもなく、ひとつのパターン(リック)を叩きはじめた。燃える石炭の上にバケツでガソリンをぶちまけたみたいだった。俺ははじかれたようにぴんと立ち、プロット・ホフマンは――ああ、フロアの反対側からでも、あいつがぶるっと身震いするのがはっきり見えたよ――クラリネットを天井に向けると、頭の毛が逆立つような上昇リフを吹いた。ストンピーもとり憑かれた。椅子の上に立ち、そのリフをいちばんてっぺんで捕まえて、ペットで引きずり降ろした。ジョーイはアップビートに乗せてギターをじゃかじゃか鳴らしはじめた――本気でのってるときしかやらないことだ。店の客全員が同時に「あ、あ、あ」と言い、そしてダンスをやめた。


シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』収録「ぶわん・ばっ!」より

時代を変える人物の出現は、得てして何かの代役をきっかけとする。みたいなこと菊地成孔が言っていた気がしたが、この「ぶわん・ばっ!」を読んでいてそんなことを思い出したり。
小説と音楽において。同じ効用を持つのは、比喩とハーモニー、オノマトペとリズム、か。前者は官能を与え、後者は躍動を生みだすそれとして。
「マエストロを殺せ」もよかったけれど、こちらも素晴らしかった*1
もちろん、そのほかの作品も。中でも「タンディの物語」は特に。子供に対する目線が、上からでもなく、逆に変に同じ目線に下がろうとするのでもなく、敬意を払うべき他者として描かれているところなど(高見映さんが子供のことを小さい人と呼ぶような)。ストーリーに関しても、驚くべき真実の告白を結末に有する展開を持ちながら。
世界には音楽が秘められているように、日常には詩が内包されている。それを記述という楽器を使って演奏するのが、スタージョンなのか。
*2

*1:「ぶわん・ばっ!」のオノマトペ田中啓文が訳出したとのことが、解説にて記されている。

*2:んー、このエントリも引用部分の方が文字数多い……嘆息。