そういえばkiaoの地元のホテルも、地域の一大雇用創出機関と化していることを思い出したり。
- 作者: ジムトンプスン,Jim Thompson,三川基好
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 文庫
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バグスはベッドの端に腰をおろし、暗がりで不機嫌そうにたばこを吸っていた。人間はどんなに低いところまで落ちても、まだまだもっと低いところが待っているのだ。この下にもまだ低いところがあって、きっと自分はそこに落ちていくのだろう。この前の転落と同様に、理由とも言えないようなささいな理由で。
(P.304)
やー、やっぱり好きです。ジム・トンプソン。たまらないですね、この骨太の安っぽさ。
『おれの中の殺し屋』『失われた男』『ポップ1280』と読んできて分かるのは、出てくる人物の役割がだいたい決まっているところですね。外の世界に出たことがなくて、これからも一生出ることはないだろう片田舎の住人達、そんな中内心彼らを小馬鹿にしつつもそんな素振りを見せずに(でも手玉に取りながら)適当に暮らしていこうとする男(しかしこの姿勢は後にしっぺ返しを喰らうことになる)、いかにも"金髪ブロンド"な女(それは通俗的な羨望や偏見、蔑視を全てひっくるめた意味での)。藤子・F・不二雄が描いた様々な作品においても通底されるキャラクター配置と、似たようなところがあります。
しかし本作が少々特殊なのは、上記三作では周りの人間達を内心小馬鹿にしているような男が主人公であったのに対し、本作ではそのような男が脇に配置され(ルー・フォード。主人公を翻弄する重要な役割ですが)、主人公である"バグズ"は<彼にはどうやら、ことさらそれをしてはまずい場面で何かをしてしまうという特異な才能があるようだった。味方を信じずに敵を信じる癖があり、些細なことには滑稽なほど固執するくせに、命に関わるほどの大問題に無関心でいるようだった。>*1という、良く言えば「不器用な人間」であり、そうでなければ「間抜けな人間」であります。
そんな性質を持つ彼はもちろん周囲とうまくやっていくことができず、それが災いして留置所を出たり入ったりする人生。そしてやっとのことで手に入れたのは、石油を掘り当て町の王者となったマイク・ハンロン老が経営する十四階ホテルの警備主任の仕事。その仕事への斡旋を図ったのは保安官主席助手であるルーであり、彼は何のためにバグズをハンロンのホテルへ入れさせたのか……。
読んでいて楽しいです。人物の出し引きも的確なタイミングで与えられる演出、サービスが行き届いたエンタテイメント。主人公はだいたいにおいて、決してよい地位にいる人間などではなく、(田舎においての)並かそれより下(プア・ホワイトとでも言うべきでしょうか)の層の人たち。そんな彼らが物語を通して、今の状況を打破すべく這い上がってゆく……ようなことはなくて、大概はさらに状況を悪化させ、究極は破滅に向かって、転がり落ちて行ってしまいます。
破滅の美学という高尚なものでもなく、ダメなものはとことんダメなんだよという身も蓋もなさ。だからこそ、その転落がギリギリで回避されたとき、そこには至上ではないが露骨でもない安堵が生まれるのです(破滅するときは普通に破滅させられる運命を背負わされていますから)。
舞台となるは、地域的にも、経済的にも、人間関係的にもこぢんまりとした世界。存在するは単なる停滞。『○○に泊まろう!』という番組がありますが*2、田舎=都市の毒牙に犯されていない純朴な地域、という概念って、もう誰も信じていないと思うのですが。都市文化と自然回帰の間を永遠に行きつ戻りつするのが、人間の性質というものなのでしょうけれど。話がずれた。