放浪息子10巻 感想2
- 作者: 志村貴子
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2010/03/25
- メディア: コミック
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感想1はこちら。
今巻の後半は文化祭なのですが、『青い花』が既存の文学作品を演劇の題目としているのに対し、『放浪息子』は既存の作品を踏襲しつつも、一貫して「性別交換劇」として行われています。
しかも今回に至っては、作中としては二鳥くんの創作劇として扱われていますが、その作品は著者のデビュー作*1でもあり、この作品の原点とも言える『ぼくは、おんなのこ』(作中では読点無し)なのです。
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『青い花』『放浪息子』を含め、演劇という装置を使用した中で、一番ストレートにその意図が伝わるものです。実際に、作中と同じような台詞が本編でも演じられています。
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展開される演劇。役者の台詞に、どこか自分を重ね合わせるかのように聴き入る高槻くん。それを視線の端に捉える千葉さん。
この一連の流れの軽やかさに舌を巻くのはもちろんのこと、これ、実は一年前の文化祭の時にもほとんど同じ構成を持つ場面があるんですよね。対立ばかり目立つようでいて、高槻くんの切実さに一番気がついているのは、実は(自分の問題で精一杯の二鳥くんよりも、意外に)千葉さんだったりするのかもしれません。
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この二度にわたる伏線は、もしかしたら三度目の文化祭で高槻くん自身に言わせることによって回収されたりするのでしょうか。
あと、今巻で特に注目を集めたのが土居の立ち位置ですね。これ、普通にいくと「ゆきさんとしーちゃん」の関係がここに生かされることになるのですが、二鳥くんが好きなのは男の子ではなく女の子で、安那ちゃんなんですよね。そういう意味ですと、安那ちゃんの存在って意外に邪魔なんですけど(笑)、逆にそういうベタを回避してどういう方向に持ってゆくかという楽しみがあります。
たぶん『放浪息子』という作品は、中学三年生で締めるのがベストな形になるのではないかと思っています。そうなると最後の山場というのがおそらく「高槻くんが誰かを好きになる」ことであり、そこで最も大きく話を動かすのが「その相手が二鳥くん」という展開だと思います。二鳥くんが高槻くんのことを吹っ切れた後に、というところがポイントです。
でも、そういう王道を進まない可能性も十分に考えられるのが、志村貴子大先生。そうした場合、もう一つの可能性として考えられるのが、……ずばり「佐々木くん」です!! それはもう佐々ちゃんと、友情をとるか愛情をとるか、そもそもわたしのアイデンティティって何? みたいな方向にまで(笑) ちょっと読みたいかも、それ。
ちなみに佐々ちゃんが佐々木君のこと好きになったのは二年生になってからですね。一年生のときは<え―――っ (引用者注:誰かを好きになったことなんて)ないよそんなの!>*6と言っていましたから。たぶん、氏名が五十音順でちかいから、なにかの用で(それこそ文化祭の準備などで)一緒に仕事をして、それで……という裏ストーリーを勝手に考えてみたり。
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そして、今巻で一番好きなショット。観ているだけで何故だか胸に熱いものがこみあげてきます。おそらく、遠くない未来にこの関係が無くなってしまう可能性が十分に考えられるからこそ、今それがあることに奇蹟のような価値を見いだすのかもしれません。