裏表紙のあらすじ紹介、ネタバレしている!注意!!

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

言葉というものは真空中(イン・ヴァキュオ)に存在するものではなく、通常の意味を越える含蓄を持つものであって、使いようによっては、ごく短い組み合わせでも、幾通りもの解釈が得られることを学生たちに示そうとしていた。

この序文から始まる本書は、これを証明するために生まれた『ニッキイ・ウェルト』による論理的思考を駆使した活躍を収めた八篇を収録する。その中でも特に秀逸なのはやはり表題作。

「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」

たったこれだけの文章から目くるめく論理展開が繰り広げられる。妥当性という仮説で肉付けし、抽象的ともいえるこの文に具体的背景が構築されてゆく。そして訪れる発想の飛躍、そのことにより思考実験と現実の境目がぐるりと反転する。

短編という切れ味。それは一瞬の隙を突いたジョーへの右フック、それによって脳が揺らされ気づいたらダウンをとられていた……という鋭いパンチに似ている。